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Geminiの学習めぐりEUへ3件目の付託。Webデータを使うAI開発で確認する4点

10月12日報道。学習と回答生成を同じ著作権ルールで扱うか、オプトアウトは技術的手段が要るかが争点です。判断はまだ出ていない前提で、見積依頼に書き分ける4点を整理します。

公開: 2026.10.12 / 更新: 2026.10.12

AI 開発の見積書に「Web からデータを収集」と一行だけ書かれていることがある。クローラーを回して記事や商品説明を集め、検索の索引に入れる。技術としては難しくない。難しいのは、集めてよいかどうかの判断を誰がするかである。

2026 年 10 月 12 日、法律専門メディア MLex が、Google の Gemini をめぐる著作権の問題が EU 司法裁判所(CJEU)へ 3 件目として付託されたと報じた。付託したのはハンガリーの裁判官で、争点は「学習」と「回答の生成」を同じ著作権のルールで扱うのか、そして出版社は技術的な手段でオプトアウトしなければならないのかである。

法廷の木槌と新聞の束、南京錠が置かれた机

報じられている事実

MLex(2026 年 10 月 12 日)によれば、今回の付託で明確化が求められているのは次の点である。

  • AI モデルの学習が、利用者への回答生成と同じ著作権規則の対象になるか
  • 著作権の例外規定がどこまで及ぶか
  • 出版社は権利を留保(オプトアウト)するために技術的手段を用いる必要があるか
  • 出版社は自社のコンテンツが使われることをどう防げるか

記事は有料部分が大半で、付託元の裁判所名と付託日は本文に記載がない。ここで確定しているのは「付託が行われたと報じられた」という事実だけであり、判断はまだ出ていない。

同じ MLex は 2026 年 9 月 23 日にも、Gemini について別の付託を報じている。そちらの質問は、学習・プロンプト処理・最新のウェブコンテンツの取得・生成される要約が報道出版社の権利を侵害しうるか、そして EU のテキスト・データマイニング(TDM)例外がどの場合にこれらを保護しうるか、である。

先行する事件として、ハンガリーの報道社 Like Company が Google Ireland を訴えた C-250/25 がある。ブダペスト近郊の裁判所(Budapest Környéki Törvényszék)が、2001 年の情報社会指令と 2019 年の DSM 指令の解釈を CJEU に求めたもので、生成 AI と著作権について CJEU が判断を求められた最初の事件とされる。大法廷での口頭弁論は 2026 年 3 月 10 日に行われ、最終判断は 2027 年と見込まれている(複数の法律事務所の解説による)。

背景にある 2 つの条文

今回の論点を理解するのに必要な条文は 2 つだけである。

条文 内容
DSM 指令 第 4 条 商用も含むテキスト・データマイニングを例外として認める。ただし権利者が機械可読な方法で権利を留保した場合、例外は適用されない
EU AI 法 第 53 条 1 項 (c) 汎用 AI モデルの提供者に、EU 著作権法(第 4 条の権利留保を含む)を守るための方針の策定を求める

つまり EU では、「権利者が機械可読な形で嫌だと示していなければ使ってよい」という構造になっている。争われているのは、その「機械可読な形」が何を指すのか、そして学習と回答生成で同じ線引きでよいのかである。robots.txt が最も確立した手段とされるが、それで足りるかは条文に書かれていない。

発注者・企業への影響

ここからは見立てである。日本企業の AI 案件に、EU の訴訟がどう効くのかを分けて考える。

1. 自社の Web データを「集められる側」として見る

先に効くのは、発注者が集める側ではなく集められる側である場合だと考えられる。自社サイトの商品説明・技術資料・導入事例は、外部の AI に取り込まれている可能性がある。EU の枠組みでは、嫌なら機械可読な形で示しておく必要がある。日本の著作権法第 30 条の 4 は構造が違うが、robots.txt や利用規約での意思表示は、どちらの法域でも「何もしていない」よりは強い。

これは AI 開発の発注とは別の作業だが、サイト改修の案件が走っているなら同じ回に入れたほうが安い。クローラー向けの設定を 1 回入れるだけの工事である。

2. 「Web から収集」と書かれた見積書の行を分解する

発注者が集める側に回るとき、見積書の「データ収集」の行には少なくとも 3 つの違う作業が混ざっている。

  1. 収集してよいかの確認(robots.txt・利用規約・権利留保の有無の確認)
  2. 収集の実装(クローラー、取得頻度、保存)
  3. 収集したデータの使い方の切り分け(学習に使う / 検索時に参照するだけ)

今回の付託が問うているのは、まさに 3 番目が 1 番目の判断を変えるかどうかである。RAG のように「学習はせず、回答のときに参照する」構成なら別扱いになるのかは、まだ決まっていない。決まっていない以上、見積もりの段階で「学習に使うか、参照だけか」を書き分けておくほうがよい。あとで分けるのは、索引を作り直す工事になる。

3. 責任の所在を契約の文面で決めておく

もう一つは、集めたデータで問題が起きたときに誰が答えるかである。開発会社は「指示されたサイトを収集した」と言い、発注者は「収集してよいか確認してもらったつもりだった」と言う。この食い違いは、工程が外から見えないぶん起きやすい。

AI開発の契約書で確認すべき12項目でも触れているが、学習データの適法性は、作業の内容ではなく判断の責任を分ける行である。

4. 海外向けサービスなら「どの法域で動くか」を条件に入れる

EU 域内の利用者に提供するサービスなら、EU AI 法の義務が乗る。汎用モデルを自社で提供するわけでなくても、使うモデルの提供者が著作権方針を公表しているかは、調達の確認項目になると考えられる。国内利用だけのシステムなら、いまは直接の影響はない。

ここは過剰に備えないほうがよい部分でもある。対象が国内の社内利用だけなら、EU の判断を待つ理由はない。

見積依頼に書いておく 4 点

Web 上のデータを使う AI 案件を相見積もりに出すとき、次の 4 点を条件として揃えておくと各社の数字が比べられる。

  1. 収集対象のサイトの一覧と、権利留保(robots.txt・利用規約)の確認を誰がやるか
  2. 収集したデータを学習に使うのか、回答時に参照するだけなのか
  3. 収集元を後から除外できる仕組み(索引からの削除手順)を作るかどうか
  4. サービスの提供先に EU 域内が含まれるか

3 番目は見落とされやすい。あるサイトを除外することになったとき、索引から消す経路が作られていないと、作り直しになる。あとから足すと高い部分である。

条件が揃っていない状態で複数社に声をかけると、収集の確認を見積もりに入れた会社だけが高く見える。無料で相見積もり・相談の案件票では、使うデータの出どころと扱い方を選択式で揃えているため、同じ前提で並べた金額を比較できる。

まとめ

EU で起きているのは、学習と回答生成を同じルールで扱うのか、そしてオプトアウトは技術的手段で示さなければならないのかという線引きの整理である。3 件目の付託が報じられた段階で、判断はまだ出ていない。

日本の発注者がいまできるのは 2 つ。自社サイト側で意思表示をしておくこと。そして見積依頼で「学習に使うか、参照だけか」と「収集元を後から外せるか」を書き分けておくことである。どちらも、判断が出てから動くより安く済む。

参考・出典

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