AIエージェントによる攻撃を国内サイトで観測。8時間で10段階、要件に足す5行
ビットフォレストが2026年10月14日に公表。10月10日夜以降に3件のIPを確認し、1件は8時間弱で手口を10段階に変えました。LLMを呼ぶフォームは連投が課金になります。見積依頼に書く5行を整理します。
AI 開発を外注すると、納品物のほとんどがインターネットに面する。問い合わせフォーム、ログイン画面、チャットの受け口、そして裏側の API である。これらは今まで「誰かが手でツールを回して探している」前提で守られてきた。
2026 年 10 月 14 日、WAF サービス Scutum を提供するビットフォレストが、日本企業のサイトに対する AI エージェントによる攻撃を観測したと公表した。10 月 10 日の夜から 14 日までに少なくとも 3 つの IP アドレスを確認し、そのうち 1 つは 8 時間弱にわたって手口を 10 段階に変えながら攻撃を続けていた。
発注側にとっての論点は、攻撃手法の新しさではない。自分が発注した AI 機能の見積書に、この種の試行に耐える行が入っているかである。

公表されている内容
公表は同社の技術ブログ「WAF Tech Blog」で、筆者は Scutum の開発者である。以下は公表資料に書かれている範囲である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表日 | 2026 年 10 月 14 日 |
| 観測期間 | 10 月 10 日夜から公表日まで |
| 確認した IP アドレス | 3 件(同社は「少なくとも」としている) |
| 検知方法 | 非公表(対策されることを避けるため) |
| 検知の精度 | 8 つのモデルで試験し、すべて検知できたとしている。誤検知はほぼ無いが、見逃しはあり得る |
| 攻撃者が使ったモデル | 不明 |
| 同社の見立て | 3 件は特徴が異なり、別の攻撃主体の可能性がある |
検知の考え方として、AI エージェントは curl や sqlmap、自分で書いた Python などを実行し、サーバーの応答を読んで次の手を変えるという性質が挙げられている。従来の一括スキャンと異なるのはこの点である。
3 件の内訳
| 観測対象 | 段階数 | 概算リクエスト数 | 中身 |
|---|---|---|---|
| 1 件目 | 1 段階 | 約 1,000 | ファイルとディレクトリの総当たり。/.git や管理画面の既定パスなど。ほぼ 404 |
| 2 件目 | 5 段階 | 約 1,440 | スキャン 3 波 → SQL インジェクションの探索 → 問い合わせフォームへの連投 |
| 3 件目 | 10 段階 | 約 12,450 | 低速スキャン → 高速スキャン → 既知脆弱性 → Nmap → フォーム操作 → ログイン試行 → 再度の脆弱性探索 |
3 件目が「8 時間弱」のもので、最後の記録は開始から 7 時間 46 分後である。第 2 段階では 5 分間で約 10,000 リクエスト(毎分約 2,100)を送り、第 8 段階ではログイン画面に対して約 250 回の試行を 33 分間続けている。第 6 段階ではヘッドレスブラウザでパスワード再設定と会員登録のフォームに触っている。
2 件目の第 5 段階が、受託開発の納品物に最も近い。既存の問い合わせフォームに対し、通常の送信手順をたどったうえで約 44 分間に約 210 件の POST を送り、XSS と SQL インジェクションの文字列を混ぜていた。
同社が挙げた対策
公表資料では、攻撃者が AI エージェントを使っていても対策は大きく変わらないとしている。挙げられているのは 2 点である。
- 脆弱性を事前に解消しておくこと(裏側の API も含む)
- 既知パターンの一致だけに頼らない WAF を使うこと
そのうえで、今後はほぼすべての攻撃者が AI エージェントを使うようになると推測している。
発注者・企業への影響
ここからは見立てである。特定の製品の是非ではなく、AI 機能を外注した企業に共通する構造として整理する。
1. 「手口が 10 段階変わる」は、見積書の前提を変えると考えられる
従来のスキャンは、1 つのツールの 1 回の実行で終わることが多かった。だからこそ「既知パターンの一致で弾く」設計が成り立っていた。応答を読んで次を変える相手に対しては、1 つの入口を塞いだだけでは試行が続くと考えられる。
発注の実務で効くのは次の 3 点である。
- 守る範囲を画面だけでなく API まで書く
- 1 回の攻撃が長時間続く前提で、ログの保持期間と通知の条件を決める
- 「正常な手順をたどる連投」は脆弱性ではないので、別に対策費が要る
レート制限・スループットとは。AIシステムが遅くなる・止まる3つの上限で書いたとおり、上限の設計は性能のためだけのものではない。今回のような連投に対しては、費用の防波堤としても働く。
2. 生成 AI 機能のフォームは、連投されると請求が増える
ここが AI 開発に固有の点である。問い合わせフォームが単にメールを送るだけなら、連投の被害は迷惑メールで終わる。しかしフォームの裏で LLM を呼んでいる場合、1 件ごとにトークン課金が発生する。
| フォームの裏側 | 210 件の連投で起きること |
|---|---|
| メール送信のみ | 迷惑メールが 210 通 |
| 分類・要約を LLM で行う | 210 回分の API 課金 |
| 社内文書を検索して下書きを作る(RAG) | 210 回分の検索 + 生成の課金 |
| エージェントが外部システムを操作する | 210 回分の課金 + 外部システムへの書き込み |
4 行目まで作っている場合、連投は課金で済まない。トークン課金とは。入力・出力・キャッシュの単価と、請求が膨らむ6か所で挙げた「膨らむ 6 か所」に、外部からの連投という 7 か所目が加わると考えてよい。
3. 見積依頼に書く 5 行
今回の公表内容から、発注側が事前に書いておける項目を挙げる。どれも作業としては小さい。
- 保護範囲の明記: 「公開画面に加えて、裏側の API エンドポイントも保護対象に含めてください」
- 連投の上限: フォーム・チャット・API ごとに、IP 単位と利用者単位の呼び出し上限を設計に含める
- LLM を呼ぶ前の関門: 認証前のフォームから LLM を呼ぶ場合、課金が発生する前に弾く仕組み(CAPTCHA・トークン・キュー)をどこに置くか
- ログの保持と通知: アクセスログの保持期間、異常な試行を検知したときの連絡先と時間
- WAF の費用の所在: WAF は初期費用か月額か、誰の契約か。「別途」になっていないか
5 番目は見落としやすい。AI開発の見積書で「別途」になりやすい費用10個。依頼時に含めさせる書き方で挙げた費目と同じ扱いで、WAF とログ基盤は発注者側の契約に回りやすい。
4. 検収で 1 項目足せる
AI開発の検収。何を確認し、どう合格を判定するかで書いた検収項目に、次の 1 行を足せる。
認証前に呼び出せる経路から、短時間に同一内容を連続送信したとき、課金が発生する前に遮断されることを確認する。
精度の検証と違い、これは数分で確認できる。にもかかわらず、検収項目に入っていないことが多い。
5. 開発会社の責任にする話ではない
最後に 1 点。公表資料自身が「対策は大きく変わらない」と述べている。つまり今回の件は、新しい技術的対策が必要になったという話ではない。必要なのは、やるべきだった基本の工程が見積書に残っているかの確認である。
AIシステムのセキュリティ設計。何を守り、どう守るかで整理した守る対象の一覧に、**「課金が発生する経路」**を 1 行加える。それが今回の観測から引ける実務上の線だと考えられる。
まとめ
- 2026 年 10 月 14 日、ビットフォレストが日本企業サイトへの AI エージェントによる攻撃の観測を公表した。10 月 10 日夜以降に少なくとも 3 件の IP を確認
- 1 件は 8 時間弱で手口を 10 段階に変え、約 12,450 リクエスト。別の 1 件は問い合わせフォームに約 210 件を 44 分間連投した
- 同社の対策は**脆弱性の事前解消(裏側の API を含む)**と、既知パターンだけに頼らない WAF の 2 点である
- AI 開発に固有の論点は、フォームの裏で LLM を呼んでいる場合、連投が課金になること
- 見積依頼に入れるのは保護範囲・連投の上限・課金前の関門・ログと通知・WAF の費用の所在の 5 行である
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参考・出典
- WAF Tech Blog(Scutum / 株式会社ビットフォレスト)「AI エージェントによるウェブサイトへの攻撃の注意喚起」(2026 年 10 月 14 日) https://www.scutum.jp/information/waf_tech_blog/2026/10/waf-blog-085.html
- ITmedia AI+「国内WebサイトへのAIエージェント攻撃を観測 「8時間弱」続いた攻撃の推移を公開 国内セキュリティベンダー」(2026 年 10 月 15 日) https://www.itmedia.co.jp/aiplus/article/2610/15/2000002284/
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