AI開発のデータ整備費用はなぜ膨らむか。5工程に分けて試算する4ステップ
「前処理一式」の1行を棚卸し・取り出し・構造化・名寄せ・正解づくりに分解します。サンプル100件を自分で処理して単価を出し、例外とやり直しを乗せる手順と、見積依頼に書く4行をまとめます。
AI 開発の見積書を並べると、金額の差がいちばん大きく出るのは「モデル」でも「画面」でもなく、データ整備であることが多い。しかも、その行はたいてい「データ前処理一式 ◯◯万円」と 1 行で書かれている。何をいくつやるのかが書かれていないので、高いのか安いのかを判断できない。
データ整備は、工数が件数 × 1 件あたりの手間 × やり直しの回数で決まる。この 3 つはどれも、発注の時点では誰も正確に知らない。だから見積もりがぶれる。この記事では、整備費を 5 つの工程に分けて、ぶれ幅を自分で測る手順を示す。

データ整備は 5 つの工程に分かれる
「前処理一式」の中身は、だいたい次の 5 つである。どの工程が要るかは案件によって違う。
| 工程 | やること | 金額を動かす変数 |
|---|---|---|
| 1. 棚卸し | どこに何件あるか、誰が持っているかを確認する | 部署数・システム数 |
| 2. 取り出し | 基幹システム・共有フォルダ・紙から取り出す | 連携先の数、API の有無、紙の枚数 |
| 3. 構造化 | PDF・画像・スキャンから本文と項目を取り出す | レイアウトの種類数、手書きの有無 |
| 4. 整形・名寄せ | 表記ゆれ・重複・旧社名・全半角を揃える | 1 件あたりの判断の難しさ |
| 5. 正解づくり | 評価用・学習用に「正しい答え」を人手で付ける | 件数、判断に要る専門性 |
分野によって重心が違う。RAG・社内検索なら 1〜4 が主で、5 は評価用に数百件あれば足りることが多い(RAG・社内検索の費用相場)。画像認識なら 5 が全体の大半を占める(画像認識・外観検査の費用相場)。
見積書を比べるときは、まずこの 5 つのうちどれが含まれているかを確認する。 1 社が 1〜5 を全部積み、別の 1 社が 3 と 4 だけを積んでいれば、金額は倍以上違って当然である。
なぜ膨らむのか — 3 つの理由
理由 1. 件数が後から増える
棚卸しの前に出てくる件数は、たいてい「主要なシステムに入っている分」である。そこに、共有フォルダの旧ファイル・部署ごとの Excel・退職者の引き継ぎ資料が後から足される。件数が 1.5 倍になれば、3〜5 の工程はほぼそのまま 1.5 倍になる。
これは開発会社の見積もりが甘いのではなく、発注側しか知らない情報である。棚卸しを先にやるか、見積もりに「件数が ◯ 件を超えた場合の単価」を書かせるかのどちらかで防げる。
理由 2. 1 件あたりの手間が、サンプルと本番で違う
きれいなサンプル 20 件を見て単価を決めると、本番で崩れる。実際のデータには、様式が変わった年度・手書きの追記・2 社分が 1 ファイルに入ったもの、といった例外が混ざる。例外が全体の 1 割あると、工数は 1 割増ではなく 3〜4 割増になることが多い。例外は 1 件ずつ人が見るからである。
理由 3. やり直しが 1 回では済まない
正解づくりは、基準を決めてから付ける。ところが基準は、300 件ほど付けたところで「この場合はどちらか」が出てきて、必ず 1 回は書き直しになる。そのとき、すでに付けた分を付け直す。この戻りを見積もりに入れていない提案は、進行中に追加費用の相談になりやすい。
自分で試算する 4 ステップ
見積もりを受け取る前に、発注側で粗く計算しておくと、各社の数字が読める。
ステップ 1. サンプル 100 件を実際に処理してみる
自社の担当者が、実際のデータ 100 件を手で処理し、かかった時間を測る。抜き出すだけなら 100 件で 2 時間、判断が要るなら 100 件で 8 時間、というような差が出る。ここで出す数字がすべての土台になる。
このとき、きれいな 100 件を選ばない。ランダムに選ぶか、古いものを意図的に混ぜる。
ステップ 2. 1 件あたりの単価に直す
計算手順を示すための仮の数字で置くと、次のようになる。
| 値 | |
|---|---|
| サンプル 100 件の所要時間 | 5 時間 |
| 1 件あたり | 3 分 |
| 作業単価(外注・時給換算) | 3,000 円 |
| 1 件あたりの費用 | 150 円 |
単価は作業の難しさで変わる。一般的な事務作業と、有資格者の判断が要る作業では桁が違う。判断が要るデータは、社外に出せないことも多い。その場合は自社の人件費で計算する。
ステップ 3. 全件に掛けて、例外とやり直しを乗せる
| 計算 | 金額 | |
|---|---|---|
| 対象件数 | 20,000 件 | |
| 基本 | 20,000 × 150 円 | 300 万円 |
| 例外の割増(1 割が 4 倍の手間) | +90 万円 | 390 万円 |
| 基準のやり直し(15% を付け直し) | +45 万円 | 435 万円 |
「前処理一式 150 万円」と書かれた見積書が来たら、この計算と突き合わせる。安いのではなく、対象件数か工程が違う可能性が高い。どちらなのかを聞くと、各社が何を前提にしたかが出てくる。
ステップ 4. 1 年後にもう一度かかる分を足す
データ整備は 1 回で終わらない。運用に入れば、新しいデータが毎月増え、様式も変わる。初期整備の 2〜3 割程度が毎年かかるものとして、運用費の行に置いておくと、3 年総額の比較がぶれない。
削れる部分と、削ってはいけない部分
| 削れる | 削ってはいけない |
|---|---|
| 対象期間を狭める(直近 2 年分だけにする) | 評価用の正解データ |
| 対象の様式を絞る(上位 3 種類だけ自動化する) | 例外の洗い出し |
| 見栄えのための整形(表示上の体裁) | 個人情報の有無の確認と除去 |
評価用の正解データを削ると、精度が出ているかどうかを判断できなくなる。そうなると、検収で揉める。数百件でよいので、必ず残す。
対象を絞るのは有効である。全部を一度にやろうとして止まるより、上位の様式だけ先に通して業務を回し、残りは人が処理する形で始めるほうが総額は下がることが多い。要件をどこで切るかはAI開発の要件定義で決めるべきことで整理している。
見積依頼に書く 4 行
相見積もりに出すときは、次の 4 行を条件として揃える。これがないと、各社が違う件数・違う工程で積んだ数字が並ぶ。
- 対象データの件数・期間・様式の種類数(概算でよい。分からない場合は「棚卸しから依頼」と書く)
- 5 工程のうち、どこからどこまでを依頼するか
- 件数が想定を超えた場合の追加単価(1 件あたり、または 1,000 件あたり)
- 評価用の正解データを何件作るか、作るのは発注側か開発側か
無料で相見積もり・相談の案件票では、扱うデータの量と種類を選択式で入力するため、各社が同じ件数の前提で積んだ金額を横に並べて確認できる。分野とフェーズごとの全体の目安はAI開発の費用相場、条件を入れた概算は30秒費用診断で確認できる。
まとめ
データ整備費が膨らむのは、見積もりの時点で件数も、1 件あたりの手間も、やり直しの回数も確定していないからである。これは誰のせいでもない。
できるのは、サンプル 100 件を自分で処理して土台の数字を作ること、5 工程のどこを頼むかを書き分けること、そして超過時の単価を先に決めておくことである。この 3 つがあれば、「前処理一式」の 1 行は比較できる数字に変わる。
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