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政府がAI実装を阻む規制を10月19日から募集。通知・通達まで対象の12日間

内閣府・デジタル庁・経済産業省が10月2日に情報提供を公表。対象は法律から通知・通達まで、LLMからフィジカルAIまで。規制で削った要件を記録に残す理由と、棚卸しで埋める4行を整理します。

公開: 2026.10.05 / 更新: 2026.10.05

AI 開発の打ち合わせで最も多く出てくる結論のひとつが「それは法令上できません」である。多くの場合、そこで要件がひとつ消え、見積書からも消える。

2026 年 10 月 2 日、内閣府・デジタル庁・経済産業省が「AI の社会実装に関する情報提供のお願い」を公表した。AI の開発・提供・利用にあたって障害となっている、または不十分な効果をもたらしている規制・制度の情報を、専用フォームで受け付ける。受付は 10 月 19 日(月)から 10 月 30 日(金)17 時までの 12 日間である。

発注側にとっての意味は、政策の話ではない。「法令上できない」と言われて削った要件を、制度側に差し戻せる窓口が 12 日間だけ開くということである。

閉じた門扉の前に書類と砂時計が並び、脇の受付箱に紙片が差し込まれている机の上

公表されている事実

内閣府のページに書かれている内容だけを並べる。

項目 内容
公表日 2026 年 10 月 2 日
実施主体 内閣府・デジタル庁・経済産業省
受付期間 2026 年 10 月 19 日(月)〜 10 月 30 日(金)17 時
提出方法 内閣府の情報提供フォーム(募集開始日から利用可能)
対象とする AI LLM、マルチモーダル AI、エージェント AI、フィジカル AI(AI ロボット、完全無人運転、AI ドローン等)
対象とする規制・制度 法律、政令、省令、規則、告示、通知・通達等
集めた情報の使い道 規制改革推進会議の審議、人工知能基本計画の改定、府省庁横断的な規制・ルールの見直し・整備
共有範囲 関係省庁に共有される

背景にあるのは **2026 年 7 月 14 日に閣議決定された第 II 期「人工知能基本計画」**である。同計画は「日本 AX」を掲げ、AI を前提にした制度の組み替えを方針として置いている。今回の募集は、その方針を実際の条文・通達のレベルまで降ろすための情報収集にあたる。

ここまでが公表されている事実である。以下は見立てになる。

論点 1. 対象が「通知・通達」まで下りていることが実務に効く

今回の募集でいちばん実務に近いのは、対象範囲に規則・告示・通知・通達が明記されている点だと考えられる。

現場で AI の導入が止まるとき、止めているのは法律そのものではないことが多い。止まる場所はたいてい次のどれかである。

止まる場所 具体例の型
法律・政令 本人確認・記録保存・資格者の関与を明文で求めている
省令・規則 手続きの様式・媒体(紙・押印・対面)を指定している
告示・通知・通達 運用上の解釈として「人が確認すること」を求めている
業界団体・監督部署の運用 公的文書ではないが、監査で指摘される

このうち 3 番目は、条文を読んでも出てこない。開発会社が「できません」と言い、発注側も「そういうものか」と受け入れて終わる層である。今回の窓口はここを対象に含んでいる。

ただし 4 番目は国の規制ではないため、この募集の対象外になる可能性が高いと考えられる。自社で止まっている原因が公的な文書なのか、社内・業界の運用なのかを分けておかないと、提出しても噛み合わない。

論点 2. 規制で削った要件は、見積書のどこにも残らない

発注側が気づきにくいのは、規制起因で落とした要件は見積書に記録されないことである。

見積書に出てくるのは「やること」だけで、「やらないと決めたこと」とその理由は書かれない。結果として次が起きる。

  • 削った理由が法令なのか、技術的に難しいのか、工数が合わないのかが後から分からない
  • 制度が変わっても、誰も「あの要件を戻せる」と気づかない
  • 別の会社に相談したら「それは今はできます」と言われ、前の見積もりの前提が崩れる

対策はひとつで、要件定義の段階で「落とした要件」と「落とした理由」の一覧を成果物として受け取ることである。理由は「法令・通達による」「技術的に未確立」「予算上の優先度」の 3 つに分けて書かせる。この区別の付け方はAI開発の要件定義で決めるべきことで整理した。

この一覧があれば、今回の募集に出す材料がそのまま揃う。逆に一覧が無い会社は、何を根拠に削ったのかを説明できない。

論点 3. 「制度が変わる前提」の設計を、どこまで織り込むか

募集の結果が制度の見直しにつながるとしても、時期は公表されていない。ここで発注側が判断すべきなのは、今の制度を前提に作るか、変わったときに差し替えられる構造にしておくかである。

後者は追加費用になる。具体的には次のような形になる。

  • 人の確認工程を設定で外せるようにしておく(削除ではなく無効化)
  • 判定ロジックを条件表(マスタ)に出し、条文の変更をデータの変更で吸収する
  • 監査ログの項目を、現行の要求より広めに取る

どれも「将来のため」の工数であり、効くかどうかは制度側次第である。したがって見積書では本体と分けた任意項目にして、金額を別に出してもらうのが筋だと考えられる。一括で混ぜると、使われなかったときに何にいくら払ったのか分からない。仕様変更の費用の考え方はAI開発の仕様変更。いつ、いくらかかるかにまとめている。

発注者・企業への影響

第一に、止まっている案件の棚卸しを 10 月 19 日までに済ませる。社内で「AI でやりたかったが見送った」案件を集め、見送りの理由を上の 4 分類に当てる。公的文書が原因のものだけが提出の対象になる。

第二に、提出に出す情報の範囲を先に決める。集めた情報は関係省庁に共有される。業務フロー・取引先・内部の判断基準をそのまま書くと、意図した範囲を超えて社外に出る。制度の話として書ける粒度に落とす判断は、外部に出す情報の線引きと同じ考え方になる。外部APIに送ってよいデータの決め方の 4 区分がそのまま使える。

第三に、「法令上できない」という説明の根拠を、今後は文書名で出してもらう。法律名・省令名・通達の番号まで書かせる。根拠が出てこない場合、それは規制ではなく運用上の慣行である可能性がある。公的な調達側の文書が民間の発注に効いた例は政府の生成AI調達ガイドライン2.0版で扱った。

第四に、制度の見直しを織り込んだ設計は、任意項目として別見積もりにする。本体に混ぜない。

第五に、提出は義務ではない。出さないことによる不利益は公表されていない。社内の情報管理の整理が間に合わないなら、出さずに次の機会に備えるほうが安全である。

棚卸しのときに埋める 4 行

  1. 見送った機能(やりたかったことを 1 行で)
  2. 止めた根拠(法律 / 省令 / 告示・通知・通達 / 社内・業界の運用 のどれか。文書名まで)
  3. その制約を外せた場合に変わる業務量(件数・時間など、数字で)
  4. 現行制度のままで取れる代替手段(あるか / ないか)

この 4 行は制度への提出材料にもなるが、それ以上に見積依頼の精度を上げる。2 行目と 4 行目が埋まっていれば、複数社に同じ前提で聞ける。無料で相見積もりの案件票では、業務の条件と外せない制約を選択式で揃えているので、各社が同じ制約を前提に金額を出したのかを横並びで確認できる。すでに受け取った見積書に「法令対応」の行があるなら、見積書チェックで根拠の書かれていない項目を洗い出せる。

まとめ

規制緩和の募集は、通常は業界団体や大企業の政策担当が対応する話として流れていく。ただし今回の対象には通知・通達が入っており、そこは現場の発注担当が最もよく知っている層である。

発注側が得るものは 2 つある。制度に意見を出す機会そのものと、「なぜこの要件を落としたのか」を社内に残す習慣である。後者は募集が終わっても残り、次の見積もりの前提をはっきりさせる。

参考・出典

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