見積もりが300万・800万・1500万円。5倍の差はどこで生まれるのか
同じ案件で3社の金額が5倍違うのはなぜか。架空のモデルケースを5つの費目に貼り直し、範囲・データ整備・精度検証・保守・権利のどこで差が付くかを分解します。5年総額と、300万円が正解になる条件も示します。
相見積もりを取って、3 社の金額が 300 万円・800 万円・1,500 万円で返ってきた。5 倍の開きがある。このとき最初に浮かぶのは「どこかがおかしい」という疑いだが、実際には3 社とも正直に見積もっていることのほうが多い。見ているものが違うだけである。
この記事では、その差を実際の数字で分解する。**以下の数字は、説明のために作った架空のモデルケースである。特定の企業の実例ではなく、実在する会社の見積もりでもない。**金額は当サイトのAI開発の費用相場の範囲内に収めてあるが、あくまで考え方を示すための仮の値である。

モデルケースの条件
- 社員 300 名の製造業
- 社内規程・業務マニュアル・過去の問い合わせ記録、あわせて約 2,000 ファイルを参照して答える社内問い合わせ対応 AI(RAG)
- 利用者は本社と 3 工場の管理部門、約 80 名を想定
- 発注側が出した依頼文は「社内文書を検索して答える AI を作りたい。予算感を知りたい」の一行
最後の一行が、この記事の本題である。**条件を固定しないまま聞けば、各社は自社の標準的なやり方で埋める。**埋め方が違うから、金額が 5 倍違う。
3 社の見積もりを、同じ費目に貼り直す
相見積もりの比較は、各社が使っている費目のままでは成立しない。当サイトの比較画面では、初期費用を次の 5 つに統一している。同じ枠に貼り直すと、こうなった。
| 費目 | A 社 | B 社 | C 社 |
|---|---|---|---|
| 要件定義・設計 | 30 万円 | 120 万円 | 250 万円 |
| データ整備 | 0 円 | 150 万円 | 400 万円 |
| 開発・実装 | 210 万円 | 320 万円 | 450 万円 |
| 精度検証 | 0 円 | 110 万円 | 250 万円 |
| テスト・導入 | 60 万円 | 100 万円 | 150 万円 |
| 初期費用 合計 | 300 万円 | 800 万円 | 1,500 万円 |
貼り直した時点で、もう答えは見えている。A 社は 5 費目のうち 2 つがゼロである。これは A 社が手を抜いているのではなく、「その 2 つはこちらの仕事ではない」と考えているということである。
差 1. 範囲 — ゼロの欄は「やらない」と書いてある
A 社のデータ整備が 0 円なのは、提案書にこう書かれているからである。「検索対象の文書は、PDF または Word 形式で、1 ファイル 1 テーマに整理した状態でご提供ください」。
2,000 ファイルのうち、この条件を満たすものが何割あるかを考えたい。紙をスキャンした PDF、複数の規程が 1 ファイルに入った文書、表だけの Excel、メール本文にしか書かれていない運用ルール。これらを整理する作業は消えたわけではなく、発注側に移っただけである。
社内の担当者が 2,000 ファイルを仕分けするなら、仮に 1 ファイル 5 分でも約 170 時間になる。人件費に換算すれば、B 社のデータ整備 150 万円と大きくは変わらない。A 社の 300 万円は、発注側の作業を含まない金額だと理解して比べる必要がある。
差 2. データ整備 — 同じ「整備」でも中身が 2 段階ある
B 社と C 社はどちらもデータ整備を見積もっているが、金額が 2.7 倍違う。提案書を読むと、やることの段数が違った。
| B 社(150 万円) | C 社(400 万円) | |
|---|---|---|
| 文字の抽出 | 対応 | 対応 |
| スキャン PDF の OCR | 対象外 | 対応 |
| 文書の分割単位の設計 | 一律の文字数で分割 | 章・条文の構造を見て分割 |
| 版の管理 | 対象外(最新版のみ) | 旧版を区別して保持 |
| 更新の仕組み | 手動で再投入 | 月次の自動取り込み |
このうち、費用差として大きいのは分割単位の設計と更新の仕組みである。規程類を一律の文字数で切ると、条文の途中で分かれて意味が壊れ、検索の精度が落ちる。C 社はそこに人手をかけている。
どちらが正しいかは、文書の性質で決まる。マニュアルが中心なら B 社の割り切りで足り、条文単位で正確に引く必要があるなら C 社の設計が要る。判断するのは発注側であり、そのためには「どちらの方式か」が見積書に書かれていなければならない。
差 3. 精度検証 — ゼロにできるが、ゼロにした結果は誰かが引き受ける
A 社の精度検証は 0 円である。提案書には「導入後、実際の利用の中で調整します」とある。
これは珍しい書き方ではないが、意味するところは合格ラインを決めないまま納品するということである。稼働後に「思っていたより答えが外れる」と言っても、基準が無いので修正義務の話にならない。追加開発として見積もり直しになる。
B 社は「想定質問 100 問を発注側が用意し、正答率 80% 以上で検収」、C 社は「業務別に 300 問、担当部署の確認付きで 85% 以上」としていた。問題数と、誰が正誤を判定するかが金額差の中身である。評価の担い手の選び方はAIの精度評価は誰がやるかに整理している。
差 4. 保守と API 実費 — 5 年で見ると順位が変わる
初期費用だけを見ていると、判断を誤る。月額と実費を足して 5 年分に引き直す。
| A 社 | B 社 | C 社 | |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 300 万円 | 800 万円 | 1,500 万円 |
| 月額保守 | 5 万円 | 18 万円 | 35 万円 |
| AI API 利用料 | 月額に込み(上限の記載なし) | 実費を別途請求 | 実費を別途請求(超過時の手順を明記) |
| 5 年総額(API 実費を除く) | 600 万円 | 1,880 万円 | 3,600 万円 |
ここで注意したいのは A 社の「月額に込み」である。上限が書かれていない定額は、どちらかが損をするまで気づかない。利用が想定を超えたときに、値上げの申し出が来るのか、応答を制限されるのか、そのまま据え置かれるのかが決まっていない。契約型の違いはAI運用費は定額保守か従量精算かで比較している。
差 5. 権利 — 金額に出ないが、乗り換えの費用を決める
最後に、見積書の金額欄には現れない差がある。
| 納品物 | A 社 | B 社 | C 社 |
|---|---|---|---|
| ソースコード | 発注側に帰属 | 発注側に帰属 | 発注側に帰属 |
| プロンプト・設定 | A 社が保持(利用許諾) | 発注側に帰属 | 発注側に帰属 |
| 設計書・手順書 | 簡易な構成図のみ | 提供 | 提供 |
| 整備データ・評価データ | 対象外 | 協議 | 発注側に帰属 |
RAG の品質を決めているのは、コードよりもプロンプトと整備済みデータである。A 社の条件では、コードを受け取っても他社が引き継ぐのは難しい。3 年後に会社を替えたくなったとき、実質的にもう一度作り直すことになる。この論点はAI開発でコードとプロンプトは誰のものかで扱っている。
300 万円が正解になる場合もある
ここまで読むと A 社が悪いように見えるが、そうではない。次の条件がそろっているなら、A 社の 300 万円は合理的な選択である。
- 対象文書がすでに電子化され、整理されている
- まず動くものを見て、続けるかどうかを決めたい段階である(PoC の位置づけ。フェーズ別の相場はAI開発の費用相場にある)
- 社内に手を動かせる担当者がいて、データ整備を引き受けられる
- 外れた答えが出ても業務が止まらない用途である
逆に、参照するのが規程類で、答えを根拠として使う業務なら、精度検証を 0 円にした見積もりは危ない。安いことが問題なのではなく、安くなっている理由が自社の条件と合っているかどうかである。価格の見方はAI開発の相見積もりを比較する方法に手順としてまとめてある。
差を読めるようにする一番簡単な方法
3 社の見積書を後から突き合わせるのは、かなりの手間である。今回のように費目を貼り直し、含まれないものを書き出し、5 年に引き直す作業は、1 社あたり数時間かかる。
手間の大半は、各社がばらばらの前提で書いてくることから来ている。裏を返せば、依頼の時点で前提をそろえておけば、この作業のほとんどは不要になる。
- 対象文書の種類・件数・形式を数字で出す
- データ整備をどちらがやるかを、発注側から指定する
- 精度の合格ラインと、誰が判定するかを先に書く
- 保守に含めるもの、API 実費の扱いを指定する
- 納品物と権利の範囲を指定する
無料で相見積もりの案件票は、この 5 点を選択式の項目として並べている。同じ案件票が各社に渡り、各社は同じ費目で見積もりを返すため、今回の表と同じ形で最初から並ぶ。手元にすでに見積書があるなら、見積書チェックで抜けている項目を先に洗い出してから追加の相見積もりに進むこともできる。
まとめ
5 倍の差の正体は、値付けの差ではなく範囲の差である。A 社の 300 万円は「整ったデータが来て、精度は使いながら調整する」前提の金額、C 社の 1,500 万円は「散らばった文書を整えて、業務別に合格ラインを確かめる」前提の金額だった。どちらを選ぶかは、自社の文書の状態と、答えを何に使うかで決まる。
金額を比べる前に、前提をそろえる。それだけで、5 倍の差は 3 つの選択肢に変わる。
AI開発の見積もりを、同じ条件で比べる。
条件を整理した 1 枚の案件票で複数のAI開発会社に依頼。初期費用だけでなく、データ整備・API 費・精度検証・保守・権利まで同じ列で比較できます。